業務用音楽ライブラリーとは?

POST : 2021/01/30

音楽には大きく分けてCommercial Music(商業音楽)Production Music(業務用音楽)の2種類があります。商業音楽とは、レコード会社からリリースされていたりするアーティストの音楽(=商業的に流通している音楽)のことを言います。コマーシャルという言葉からこれを広告用音楽だと勘違いしがちですがそれは間違いです。そして、業務用音楽とは、番組など映像コンテンツの制作(=Production)のために作られた音楽のことを言います。適切な訳語が無く、便宜上「業務用音楽」と呼んでいるとも言えます。Production Music(業務用音楽)は、番組や映画等のために書き下ろされた劇伴音楽とあらかじめ制作されてストックされたライブラリー音楽(業務用音楽ライブラリー)の両方を含みます。

では、この商業音楽と業務用音楽の違いはどこにあるのでしょうか?
その前に音楽著作権の基本的な要素を確認しておきます。

音楽の著作権分類

この図のように著作権は大きくSynchronization Rights / Mechanical Rights / Performance Rightsの3つに分類されます(他に譜面出版の権利などもありますが映像コンテンツ制作等には直接関係してきませんので割愛します)。また、これに加えて著作隣接権のMaster Rights(いわゆる原盤権)も映像コンテンツ制作に関わってきます。

Synchronization Rights(シンクロ権)とは映像と同期して音楽を使うという行為に関わる権利で、このシンクロ権と音源の権利であるMaster Rights(いわゆる原盤権)の利用許諾(=ライセンス)を得られて初めて映像コンテンツの制作に音楽を利用できるようになります。そして、出来上がった映像コンテンツの利用(放送したり、ネットで配信したり、店頭で上映したり)する際にはPerformance Rights(演奏権)が関わってきます。利用用途(媒体)や量(回数など)に応じた利用料金を支払う必要があります。Performance Rightsは日本では「演奏権」と言われるため、楽器演奏などの実演だけ指すと勘違いされたりもしますが、音楽(を含む映像コンテンツ)の利用全般に関わる権利です。

海外(特に欧米)ではシンクロ権は強い権利で、音楽(著作権)の権利者(主に音楽出版社)が著作権管理団体などに管理委託をせずに自分で管理しています。そのため、例えばあるアーティストのある楽曲(商業音楽)をテレビ番組に使いたいと思ったら、音楽出版社とシンクロ権の許諾をしてもらうための交渉をし、高額なライセンス料を支払う必要があります。さらに、音源の権利者(レコード会社などであって、音楽著作権の権利者とは別の場合がほとんど)と原盤権の利用交渉をしライセンス料を支払って、はじめて利用が実現します。しかし、こんなに手間とコストをかけていたらスケジュール的にも予算的にも厳しいです。そこで登場するのが業務用音楽ライブラリーなのです。

業務用音楽ライブラリーの主な利点は以下の2つです。
・もともと映像コンテンツ制作に使われるために作られているのでシンクロ権の利用許諾が前提であり、その料金も商業音楽に比べると安価である。
・業務用音楽ライブラリー会社はシンクロ権と原盤権の両方を保有(または管理)しているので、ライセンス処理が一度で完了する。
このため、正確な統計資料はありませんが、海外(特に欧米)のテレビ番組では業務用音楽ライブラリーの占める割合が全体の50%以上とか70%以上などと言われています。

ところが日本では、テレビ番組に使われている音楽の大半が商業音楽という状況です。最近は国内での放送だけでなく、配信や海外での利用(海外番販)なども考慮して商業音楽の利用割合が以前よりは少し減少傾向にありますが、まだまだ欧米とは状況が大きく違います。なぜこのような違いがあるのかというと主な理由は以下の3つです。
・日本ではシンクロ権も含めて録音権としてJASRAC管理となっている。(欧米ではシンクロ権は自己管理)
・JASRACと放送局との包括契約(ブランケットライセンス)の中にシンクロ録音利用も含まれている。(権利者との個別交渉は不要)
・原盤権についてもレコード協会と放送局との間で包括契約で処理されている。(権利者との個別交渉は不要)
これらによって、放送される番組については商業音楽を使い放題という欧米では考えられない状況が日本では可能となってます。このため、日本では業務用音楽ライブラリーのニーズが海外に比べて小さく、そのプレゼンスは欧米と大きな差があります。

このように商業音楽と業務用音楽には大きな違いがあるのですが、最近はその垣根が少し曖昧になりつつあります。業務用音楽ライブラリーとしてリリースされている音楽の中にはSpotifyやApple Musicなどで配信され、映像コンテンツ制作のための音楽としてだけでなく、商業音楽と同じように「聴かれる」音楽として人気となっているものも増えてきています。また、商業音楽の側からは、主にインディペンデントのアーティストを中心に、ネット上のマイクロライセンスプラットフォーム(ArtlistやAudiioなど)を利用して自身の楽曲(商業音楽)のSynchronization Rightsのライセンスを積極的に提供する(そして、それを収入として得る)ケースが増えています。こういうことで両者の境目は今後もさらに曖昧になっていくと思われます。


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