YouTubeの著作権申し立てについて知っておくべきこと

POST : 2021/01/30

YouTubeに動画をアップロードしたら「著作権侵害の通知が来た」という話をよく聞きます。ただ、この表現には若干の間違いが含まれています。これは「Content IDによる申し立て」というもので、「著作権申し立て」などとも言います。このContent ID(コンテンツID)による「著作権申し立て」というものについて、整理していきましょう。

まず、多くの日本人(日本企業)が見落としがちなところですが、YouTubeは「アメリカ法律下のアメリカ企業によるグローバル(世界共通)サービス」です。また、「もともと個人クリエイターによるUGC(User Generated Content)のためのプラットフォームであり、巨大になった今もその精神は変わっていない」という点も重要です。コンテンツIDの仕組みは少し大げさに言うと、「アメリカ企業がアメリカの法律に従いながらもその一方で世界中のUGC文化を守る」ために生まれたものと考えることができます。

アメリカの著作権法にデジタルミレニアム著作権法(DMCAと略されます)というものがあります。この中に「ノーティスアンドテイクダウン手続」というものがあります。これは、著作権侵害コンテンツが掲載されているウェブサイトを見つけた場合、権利者はそのウェブサイト運営者に通知(Notice)をしますが、それを受けた運営者が速やかに削除(Takedown)すれば、運営者は著作権侵害の責任を免れるというものです。

デジタルミレニアム著作権法(Wikipedia)

YouTubeは前述の通りUGCのためのプラットフォームなので、当初は違法コンテンツの温床でもありました。それでも、ノーティスアンドテイクダウンのルールに従って、権利者からの通知があれば削除するという対応をしていれば責任を問われなかったわけです。しかし、成長に伴って違法コンテンツの数も増え、YouTube側も権利者側も個別に対応する負担が大きくなったので、これを自動化する仕組みとして生まれたのがコンテンツIDだと考えられます。

もともとは違法コンテンツを削除(Takedown)することが目的だった仕組みですが、YouTubeから権利者に広告収入の一部を分配することで権利者は自らの音楽が無断で使われている動画をBlockせずにMonetizeする(言い換えれば、後付けで利用を認める)ことが最近では主流となっています。以前はよく見かけた(多くは大手レコード会社の名前で)ブロックされて再生されない動画を最近はあまり見なくなったことでもわかります。これは、UGCクリエイターに対して音楽の権利者が利用を許諾するというある種の拡大集中許諾の仕組みをYouTubeが作り上げたとも言えるのではないでしょうか。その上、利用許諾料はいわばYouTubeが肩代わりしていて、クリエイターは事前に個別に権利者と利用許諾の交渉や手続きをしなくてもYouTube上であれば音楽を合法的に利用できるのです。(コンテンツIDに登録されている、かつ権利者がMonetizeポリシーを採用しているものに限る)

コンテンツIDの基本はオーディオデータのフィンガープリント技術を使ってマッチングするものです。ですので、基本は音楽(著作権)ではなく音源(原盤権)の権利者がオーディオデータを登録します。実際はほとんどの場合、権利者が直接YouTubeのデータベースに登録するのではなく、仲介業者(有名なところだとAdRevなど)を介して登録されます。そのデータとアップロードされた動画との間で音源の利用状況を調べるわけです。一致した場合は、権利者があらかじめ設定したポリシー(ほとんどの場合はMonetize)に応じた処理が自動で行われます。これによって発生するのが「著作権申し立て」というものです。(現在は著作権の権利者もこの仕組みを利用できるようになり、それが原因で別の混乱も発生しているのですが、その件については別の機会に記事にしたいと思います。)

多くの日本のYouTube利用者(特に企業チャンネルを運営されている方など)がこの「著作権申し立て」を受けた時に驚き、狼狽える要因の一つはYouTubeの日本語版での言葉の使い方にあります。以下のヘルプページを見ると「動画に申し立てがある場合は、[制限] 列に [著作権侵害の申し立て] と表示されます。」という記述があります。「著作権侵害」という文字を見たら、そのつもりが無い人は驚きますね。しかし、詳細を表示するとそこには「これは著作権侵害の警告ではありません。」と書かれている場合があります。これは混乱しますね。
Youtubeヘルプ - Content ID の申し立てとは
このヘルプページを英語で見ると「著作権侵害の申し立て」となっているところは「Copyright claim」となっています。同ページ内には「著作権侵害の警告」という言葉も出てきます。その部分は英語版では「Copyright strike」となっています。claimとstrikeだとニュアンスがだいぶ違います。また、少なくともここまでに書いてきたことを総合すると、最初に届く通知はこの時点では著作権侵害の通知ではなく、コンテンツIDという仕組みに登録されている楽曲(音源)の動画内での利用が自動で判別されましたよ、という連絡でしか無いのです。そして、権利者の多くはBlockではなく、Monetizeというポリシーを選択しています(=利用を認めている)ので、明らかに著作権侵害ではないと言えます。YouTubeには誤解を招く「侵害」という用語の使い方は改善してもらいたいところです。

なお、本ウェブサイトで扱っているLigar Music Libraryは、コンテンツIDのデータベースに登録をしていますが、本記事内の一般的な権利者とは違う運用をしているため「著作権申し立て」は一切発生しません。


bt_play
icon_list_menu